
睡眠時無呼吸症候群
睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome:SAS)とは、睡眠中に繰り返し呼吸が止まったり、浅くなったりする疾患です。自覚しにくいにもかかわらず、日中の強い眠気や集中力の低下、さらには高血圧や心疾患などの生活習慣病とも深く関係することが知られています。

睡眠中の無呼吸の問題点
人は眠っている間、無意識に呼吸を繰り返しています。しかし、睡眠時無呼吸症候群になると、この呼吸が何十回、時には百回以上止まってしまうのです。呼吸が止まることで体内の酸素濃度が低下し、脳や心臓など全身の臓器に大きな負担をかけます。睡眠の質も著しく低下し、眠っても疲れが取れず、日常生活に支障をきたすことがあります。
睡眠時無呼吸症候群のタイプ
睡眠時無呼吸症候群には大きく分けて以下の2つのタイプがあります。
閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)
最も多いタイプで、喉の空気の通り道(上気道)が睡眠中に物理的に塞がることにより呼吸が止まります。肥満や扁桃肥大、下あごが小さいといった構造的な要因が関係していることが多く、いびきを伴うことが特徴です。
中枢性睡眠時無呼吸(CSA)
脳からの呼吸命令がうまく出なくなることによって呼吸が止まるタイプです。心不全や脳血管障害などに関連して起こることがあり、閉塞性と比べて頻度は少ないですが、治療方針が異なるため精密な診断が必要です。
自覚しにくいが見逃せない主な症状
いびきと無呼吸の繰り返し
家族に「いびきがひどい」「息が止まっていた」と指摘されて気づく方が多いのが特徴です。本人は無呼吸に気づかず、睡眠の質の低下による日中の不調で初めて受診するケースもあります。
日中の強い眠気と集中力低下
仕事中や運転中に強い眠気を感じることがあります。これにより、交通事故や労働災害のリスクが高まることが問題視されています。
頭痛や倦怠感
起床時の頭痛、慢性的なだるさや抑うつ気分も、十分な睡眠がとれていないことによる代表的な症状です。
勃起不全や性欲低下
男女ともにホルモンバランスに影響を及ぼすことがあり、性機能障害の一因ともなりえます。
睡眠時無呼吸症候群の主な原因
肥満との関係
最も多い原因の一つが肥満です。首まわりの脂肪が喉を圧迫することで気道が狭くなり、無呼吸が引き起こされやすくなります。体重の増加とともに症状が悪化する傾向があります。
顎の形や舌の位置異常
下あごが小さく後方にある、舌が大きい、軟口蓋(喉の奥の柔らかい部分)が垂れているなどの解剖学的要因も関係します。これらは遺伝的要素もあり、痩せていても発症する方がいます。
鼻づまりやアレルギー
慢性鼻炎やアレルギー性鼻炎により鼻の通りが悪くなると、口呼吸をするようになり、気道が狭くなりやすくなります。
飲酒や睡眠薬の影響
アルコールや睡眠薬は筋肉を緩める作用があるため、喉の筋肉も緩んで気道が塞がりやすくなります。
加齢と性別の影響
男性に多く見られますが、閉経後の女性にも増加傾向が見られます。加齢とともに筋肉が弱まり、気道が塞がれやすくなるためです。
睡眠時無呼吸症候群が引き起こす合併症
高血圧と心疾患
無呼吸による低酸素状態が交感神経を刺激し、血圧を上昇させます。治療抵抗性高血圧の背景にはSASが隠れていることも多いです。
糖尿病との関連
血糖コントロールにも影響を与えることが知られており、SAS患者は2型糖尿病の発症リスクが高いと報告されています。
脳卒中や心筋梗塞
血管へのダメージが蓄積され、重篤な心血管イベントを引き起こす可能性があります。
認知症やうつ病
慢性的な睡眠不足は脳の認知機能にも悪影響を与えることがあり、記憶力や思考力の低下、気分障害と関連があるとされています。
睡眠時無呼吸症候群の検査方法
自宅で行う簡易検査(簡易PSG)
小型の機器を用いて自宅で行える検査で、呼吸の状態や酸素飽和度、いびきなどを測定します。スクリーニングとして有効で、簡便さが魅力です。
精密検査(終夜睡眠ポリグラフ検査:PSG)
医療機関で一晩かけて行う検査で、脳波・眼球運動・筋電図・心電図・呼吸・いびき・体位などを総合的に記録します。診断の確定や治療方針の決定にはこの検査が重要です。
AHI(無呼吸低呼吸指数)による重症度分類
1時間あたりの無呼吸・低呼吸の回数を数値化した「AHI(Apnea-Hypopnea Index)」により、以下のように分類されます。
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軽症:5~15回
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中等症:15~30回
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重症:30回以上
睡眠時無呼吸症候群の治療法
生活習慣の見直し
軽度の場合は、減量、禁煙、禁酒、睡眠姿勢の工夫などで症状が改善することもあります。横向きで眠るようにするだけでも無呼吸が軽減される場合もあります。
マウスピース(口腔内装置)
中等症までの閉塞性睡眠時無呼吸に対して、歯科医師が作成するマウスピースを装着することで、下あごを前方に固定し、気道を広げる治療法です。
外科手術による治療
扁桃腺肥大、アデノイド過形成、顎の位置異常などが原因の場合は、それらを改善するための手術が選択されることがあります。
CPAP療法とは何か

CPAP(シーパップ)の基本
Continuous Positive Airway Pressureの略で、持続陽圧呼吸療法と呼ばれます。睡眠中に鼻にマスクを装着し、一定の空気圧を送り込むことで気道を常に開かれた状態に保ちます。
効果の高さと即効性
CPAPを使用したその日から、いびきが改善し、無呼吸がほぼ消失するケースも少なくありません。日中の眠気や倦怠感も数日で改善されることがあります。
副作用と対応策
最も多い副作用は「鼻の乾燥や違和感」「マスクの圧迫感」「空気漏れ」などですが、多くは適切な設定やマスクの選定で解消可能です。
継続使用のためのコツ
毎日使い続けることが治療効果を保つカギです。医師や技師と相談しながら、快適に使用できる環境を整えることが重要です。
当院でのCPAP導入の流れ
初診から検査まで
まずは診察で症状や生活背景を伺い、簡易検査を自宅で受けていただきます。
当院では、ご自宅で手軽に行える簡易検査(簡易PSG)も実施しており、お忙しい方にもおすすめしています。小型の機器を使って、呼吸の状態や酸素飽和度、いびきなどを測定します。簡便でありながら、睡眠時無呼吸のスクリーニングとして有効な検査です。
その結果に基づき、必要に応じて精密検査を行います。
CPAP導入と装着指導
検査結果が中等症以上であれば、保険適用でCPAP療法が始まります。専門スタッフがマスクの装着方法や機器の使い方を丁寧に指導します。
継続フォローと再評価
治療開始後も定期的な通院が必要です。使用状況は機器に記録されており、データをもとに効果の確認と調整を行います。
よくある質問にお答えします
CPAPは一生使い続ける必要がありますか?
現在の医学的見解では、原因が構造的である場合はCPAPを継続する必要があります。ただし、減量や手術などで改善が見込めるケースもあります。
毎晩の装着が面倒では?
慣れるまでに数日から数週間かかる方もいますが、効果が実感できることで前向きに取り組む方が多いです。使用感を改善するマスクも種類豊富にあります。
旅行や出張時はどうするの?
携帯用CPAPやバッテリー駆動タイプもあります。当院では携帯時の相談や証明書の発行なども行っております。
睡眠時無呼吸症候群の予防と早期発見のために
気づかぬうちに進行してしまう怖さ
無呼吸は睡眠中に起こるため、本人が気づかないまま進行してしまうことが多いです。家族やパートナーの気づきが重要な手がかりとなります。
健診やドライバー健診でもチェック可能
企業健診などでSASのリスクチェックが導入されるケースが増えています。自覚症状がなくても、健診の結果から検査を勧められることもあります。
疑わしいと思ったら早めの相談を
いびきや眠気、体調不良が続くようであれば、放置せずに医療機関を受診することが大切です。特に運転や機械操作を仕事とする方は早期対応が求められます。
睡眠時無呼吸症候群は「眠りの質」がすべてを左右する病気です
良質な睡眠は、身体と心の健康の土台です。いびきや日中の眠気を「ただの疲れ」と軽視せず、原因 を突き止め、正しい治療を受けることが人生の質を高めます。当院では、SASの診断から治療、生活支援までを一貫してサポートしております。睡眠に少しでも不安を感じる方は、どうぞお気軽にご相談ください。